それでも愛してる

病なんかぽぽいのぽい 音楽聴いて穏やかに生きていこ  毎日が冒険の日々ー

嫌子屋の用心棒

『おねーちゃん達の駆け抜けた時代』


愚者は同じ事を繰り返し、片親の出来上がり。家なき子の出来上がり。幼くとも子供は冷静に現状を把握し、大人の世界に絶望し、

やがて心は凍結する。もう誰も開くことができなくなるくらい氷点下の心の扉は固く施錠される。
それらの子供達が集まる「児童施設」

その場所をあたしらは、

「けんこや」と呼ぶ。

よく、「お前、けんこやだろー」てばかにされた。泣いたら虐められてた。

だけどね、光が舞い降りた。

目の前に誰か立ってる。怒鳴ってる。いじめっ子が逃げていくのが分かった。

声が聞こえた。

 

「おい、嫌子屋を恥じるな。泣かんで戦わんかい。

 己を貫いてなんぼやろが。大人とか絶対信じるな。戦え」

 

何年生?意味はわからなかった。
けれど息ができないほどどきどきした。

その男子は黙ってどこかへ行った。

施設に戻った。
ゆうきが泣いてまぶたが腫れてるあたしに駆け寄ってきた。

「誰が泣かせたか言い。あたしがやっつけてくる」

ゆうきが眉間にシワ寄せてあたしを睨みながら言った。

永徳ちゃんがあたしを少し見て角材持ち校舎に向かうとこでおばちゃんに怒られてた。

 

でも、よく覚えてる。

さっきの声が浮かんだ。

「戦え」

ゆうきに言った。「じ、自分で戦う。。」

「ゆうこはおとなしゅうしとき。
 あたしがやっつける。立てんようしてやる」

「で、でも」

「何人や、何組や
あたしらばかにしたら、どうなるか思い知らせたる」

泣いてしまった。同時に聞き覚えのある声が嫌子屋に響いた。

「自分で戦う言いようやろが
お前が口出すな。一人で戦わせてこい」

涙目でぼやーっと見えるゆうきの後ろに立ってる人。

その二人は口喧嘩はじめた。

その場から離れた。

 

3年3組の靴箱。さっきの男子達がいた。足の震えが止まらない。

嫌子屋や、国の金で楽勝で生きとるて母ちゃんが言いよった!
ゴミー!!!」

みんなのバカにする笑い声。涙、我慢する。

「ち、bcじ。。。。ちがう。。」

「ああ?ゴミ!人間の言葉わかるとやあ?」

「ご、ごみじゃない。。ごみやない!
あたしは、あたしはごみやない!生きとるんよ!!」

またでっかい笑い声が襲ってくる。
悔しくて悔しくて涙こらえて歯を食いしばっても

涙は大量に溢れ出して爆笑する男子達の笑い声に
負けず立ってるのがやっとだった。

 

「たいがいにせえよ」

 

ドスッっという鈍い音がした。

「。。。。。。??」

静寂。

ずっと下を向いてた顔を恐る恐るあげた。

バカにしてた男子達が固まってた。そしてその内の一人がひっくりかえってた。

あたしの前にまた誰か立ってた。
そして怒号が響き渡った。
足がすくんだ。

「一人で戦いに来た奴を笑いやがって。それも女に。
キサマらこそゴミじゃ。

この女がどんだけの勇気振り絞ってここに来たかわかるか。

この女が泣きながら
「あたしは生きてる」
て叫び倒した悲鳴がそんなにおかしいか。

キサマらの家、教えろ。キサマらの親ってのを黙らせたる。

キサマらみたいに俺らが楽勝で生きてきたと思うなよ。
嫌子屋なめんなよ。

俺の顔を一生忘れんなよ。忘れられんようしたる。

てめえらの親がヤクザとか
てめえらが何年生とかそんなもんで俺らがビビる思うなよ

おい
キサマさっきゴミ言うたな。

ひとりぼっちで戦いに来た奴にゴミ言うたな。
待ってやるから何十人でも仲間連れてこい。
パパとママも呼んで来い。先生も呼んで来い。
一人残らず俺がゴミにしたる」

いじめっ子達が泣き出して、あたしも座り込んで泣いた。
この男子、なんやろか

その瞬間、ゆうきの大声が聞こえた。

「ゆうこ泣かしたなあ!泣いてすむ思うなぞっ!
誰が泣かしたんや!しばいたる!」

いじめっ子達とあたしだけが泣いてた。先生が2人くらいかな。やってきた。

あたしは、すぐ先生に保健室に連れて行かれた。

その後のその場所での事は知らない。どれくらいだろう
時間経って暗くなってから

施設に先生が送ってくれた。先生はすぐ帰ろうとしたら
その後ろから

またあの声が聞こえた。足がまた震えてその場に座り込んだ。
ゆうきが走ってきた。

 

あの男子が声を出した。
「汚ねえゴミ捨て場からは、はよう帰りたいですかあ!
はーっはっはっは!!」

恐ろしい笑い声が嫌子屋中に響き渡った。

どんな感じだったか覚えてないけど
嫌子屋が凍りついた感じだった。

施設のおばちゃんに台所連れて行かれて
そこで一人でごはん食べることになった。

もう夕食の時間だった。色々気になったけど夕ご飯食べはじめた。メニューは忘れた

「ゆうこちゃん、今日はこの部屋でおばちゃんと寝ようかね」

そういうことだったらしい。テレビも一人で見れるしまあ
嬉しかった。

ゆうきがドアから顔出した
「ゆうこ!もう大丈夫だからね!」
って笑ってくれてた。

あたしもへらへら笑ってばいばいした。

 

一人でぼーっとテレビ見てた。

何となく後ろ振り返ったらあの男子が立っててびっくりした。

「よう」

受け答えしなかった。固まった。

「ようやった。後は任せろ。守ったる」

 そう言い残して男子は出て行った。あたしは固まってた。

守ってやる?あたしを?

施設のおばちゃんが顔をしかめて言った。

 

「あの子とは遊ばんどき。問題ばっか起こすし
ここに赤ちゃんの頃からおるんよ。
末恐ろしい可愛げのない
ほんと不気味なんよ」

 

その言葉はちゃんと覚えてるけど
けど、それどころじゃなかった。

胸が破裂しそうだった。それどころじゃなかった。
赤面していくのがわかった。

 

初恋した。

 

今でもたまに思い出す。今日も海で座ってたばこ吸ってて
思い出してた 。

どこに初恋感じたのかな。とか考えてた。

でも女で困ってて「守ってやる。安心しろ」とか
いきなり言われたら

ちょっとグッとくるよね。
あたしもがきんちょなりに女だったのかな。

 

 

『けんこやのお話はまたいつか』