それでも愛してる

病なんかぽぽいのぽい 音楽聴いて穏やかに生きていこ  毎日が冒険の日々ー

5歳児とび子は空を跳ぶ

五歳児疾風怒濤


ぱっと目が開く
いつもの暴力両親はいない
飛び起きる
夏休み
お盆

朝、6時過ぎ
ゆきは100円はいった財布を首から下げて

走り出す

『愛するおばあちゃんのもとへ
絶対往くんや
神様にお願いごとするんや
おばあちゃんが長生きしますようにて
お願いするんや
そして
一人でいい
トモダチほしいて言うんや』

おばあちゃんちまでの地図は持ってる

しかし外を出たのはいいが道がわからない
バス停にバスが止まった
バスに乗り込み運転手に大きな声で聞く

『宇美東はどういけばいいですか!』

ぎょっとした運転手はゆきを見て言う

「このバスは宇美にはいかんよ、
お母さんに聞きなさい」
バスを降りる
周りを見渡す

夏の朝の霧がカマイタチの如く
脳天から爪先まで
『往け』
と言う

深く早朝の空気を思いっきり吸うと
その向こうに
いつものパン屋のおばあさんが見えた
おばあさんの元へゆきの
サイボーグ戦士009の奥歯スイッチが発動
『おばちゃん!ここ、どうやって往くん!』
眼鏡をするりとずらしゆきの地図を見る

「ゆきちゃん、おはようさん
夏休みやもんね。
朝からセミでもとるんかい?
トモダチはどうしたん?
何でこんなとこまで往くん?」

『去年もいつもおばあちゃんちに
遊び往くて約束してるんよ!
おばあちゃん宇美町におるんよ!』

店の老婦はゆきに軽く笑みを浮かべると
そこで待っていなさいと言い店の奥に入っていった

『何が。。はよ、はよ』

店から小さな封筒を持っておばあさんは出てきた
「ええか?ゆきちゃん。あんたの足じゃこんな遠くまで
絶対往けんけん。
千早のバス停があるやろ?
あそこの64番がよう来るけん
それに乗ったら宇美東までいけるけ
そん時この封筒にお金が入っとるけんがcdx

『いらん!!お金なんかもらったら
おばあちゃんに怒られる!!
もういい!!』

早朝とは言え
至極、接近してくる太陽に吐き捨てるよう、ゆきは
おばあさんの静止を振り切り走り出した

宇美町
其の昔、炭鉱が栄、男も女も上半身裸で真っ黒になりながら、涙し笑い皆が寄り添うって生き抜いてきた町

その話をゆきはおばあちゃんからいつもいつも
聞かされ聞いてそれはやがて憧れとなり
おばあちゃんが言った言葉

「考えるな 感じなさい」

それを胸に喜びであろうとも悲しみであろうとも
憂いなくして世に万物無くと
ただ
ただ、それを当時ゆきがわかっていたのがは別として

ぼろぼろの地図を掴みゆきは太陽の動きを睨みながら
駆け走る
彼女なりに挫けそうになる時に思い出す言葉
『全ての命に生かされて』
その言葉がゆきの心に響いているのか別として
ゆきが今、欲しているものは一つ

『これ、なに。眩暈がする。何か飲まなきゃ』
歩道の隅に座り込んだ
「葛藤」
その二文字
今ならまだ子供だし楽に家に帰れるかもしれない
あわよくばあの暴力両親からの
攻撃回避もいけるんじゃないか


ノーガードのボクサーのようにすうっと立ち上がった
西の彼方にノックダウンしそうな
太陽が眼球剥離に注ぎ込んでくる
ゆ き は
一言、腹からうめいた

『近い将来
ここで敗れ去ったあたしに
ともだちなんかできるんかいな
あたし甘えてないかな
もっともっと極限状態の子って
いるんやないやろか
その子たちのことをさ
あたしが守れんやろ
ここで負けたらさ
おもちゃのネジや
おもちゃでいいんよ
そやから
ネジを巻いてあたしは奮い立つ』

走り出す

風は避けさらす
ふりそそぐ太陽熱は撥ね返される
アスファルト合材の熱がゆきと一体化して往く

愛、走れ走れ

そして、やがて太陽なるオレンジは消え去った
やがて訪れるのは満天の星空

ゆきは何を想い
おばあさまに聞いた「宇美のベンチ」で
ぼろぼろで寝たのであろう

会わずものガナ
手遅れナリし
久しく見ぬ強気撫子よ
愛、果てず

 

30年以上前の遠いお話

 

 

 

2013年
2/13

白血病と戦い抜いた

とび子
黄昏時の伝説

 

とび子が天使になる前の日の言葉


『なる子
 ごめん
 (笑)
 後を頼むよ』

 


~私の愛した最愛なる姉の物語~